この記事では多様体とは何か、どうしてそんな概念が生まれたのかを考えていきます。
最初に多様体とは何なのかを一言で言うなら「なんだかよくわからないものを自分の土俵に持ち込み理解するための概念」です。
なのでこれからこの記事で展開されていく考え方は「宇宙」や「情報」など人類がその全貌を理解していない、認識できないようなものを人類がこれまで築いてきた数学を使っていろいろしたーい! という願いをかなえてくれる(かもしれない)ものの基礎です。
いきなり厳密にあれこれ考えるのではなく、まずは肩の力を抜いてザックリ理解していきましょう。数式もたくさん出てきますが、もしわからなくても気にせず歩んでいきましょう。
曲面を定めよう
平面 \(\mathbb{R}^2\) のある領域 \(D\) から 3次元空間 \(\mathbb{R}^3\) への写像があるとします。この写像を \(\varphi\) と表し、\(\varphi\) は \((t, u)\) という 2つの変数を取り、それぞれの値に対して \((x, y, z)\) という 3次元の座標を返します。このとき、\(\varphi\) の定義は以下のようになります:
$$ \varphi: D \longrightarrow \mathbb{R}^3: (t, u) \longmapsto (\varphi^1(t, u), \varphi^2(t, u), \varphi^3(t, u)) =: (x, y, z) $$
ここで、\(\varphi^1, \varphi^2, \varphi^3\) はそれぞれ \(x, y, z\) 座標を計算するための関数です。
滑らかな曲面であるための条件
この写像によって定められる曲線や表面が滑らかであるためには、特定の条件が必要です。その一つが、ヤコビアンがゼロとならないことです。
\(\varphi\) のヤコビアンとは、この写像が局所的にどのように座標を変換するかを表す行列の行列式です。ヤコビアンは、写像の感度や、ある領域から別の領域への写像がどの程度「広がり」や「縮み」を伴うかを示します。2次元\((t, u)\) から3次元 \((x, y, z)\) への写像のヤコビアンは、次のように計算されます:
$$
J=\left|\begin{array}{ll}
\frac{\partial \varphi^1}{\partial t_2} & \frac{\partial \varphi^1}{\partial u_2} \\
\frac{\partial \varphi^2}{\partial t_3} & \frac{\partial \varphi^2}{\partial u} \\
\frac{\partial \varphi^3}{\partial t} & \frac{\partial \varphi^3}{\partial u}
\end{array}\right|
$$
しかし、上記は \(2 \times 3\) の行列であり、通常の行列式は定義されません。一般的には3つの \(2 \times 2\) のサブマトリクスの行列式を計算し、それぞれがゼロでないかをチェックします。これらは次のようになります:
$$
J_1=\left|\begin{array}{ll}
\frac{\partial \varphi^2}{\partial t} & \frac{\partial \varphi^2}{\partial u} \\
\frac{\partial \varphi^3}{\partial t} & \frac{\partial \varphi^3}{\partial u}
\end{array}\right|, \quad J_2=\left|\begin{array}{ll}
\frac{\partial \varphi^1}{\partial t} & \frac{\partial \varphi^1}{\partial u} \\
\frac{\partial \varphi^3}{\partial t} & \frac{\partial \varphi^3}{\partial u}
\end{array}\right|, \quad J_3=\left|\begin{array}{ll}
\frac{\partial \varphi^1}{\partial t} & \frac{\partial \varphi^1}{\partial u} \\
\frac{\partial \varphi^2}{\partial t} & \frac{\partial \varphi^2}{\partial u}
\end{array}\right|
$$
これらのヤコビアン \(J_1, J_2, J_3\) が同時にゼロになる点が領域 \(D\) に存在しないという条件は、写像 \(\varphi\) がその点において局所的に一対一である(すなわち、異なる \((t, u)\) のペアが同じ \((x, y, z)\) に写されない)ことを保証します。この条件が満たされるとき、\(\varphi\) によって形成される曲線や面は滑らかになります。本によってはヤコビアン\(J\)のランクが2という言い方もあります。
この条件がどういうものなのか理解するために、具体例を見ていきましょう
具体例
写像 \(\varphi: (t, u) \mapsto \left((t^2 + a) \cos u, (t^2 + a) \sin u, t\right)\) に関連する三つのヤコビアンについて考えます。この写像は、\(\mathbb{R}^2\) の領域 \(D = {(t, u) ;-1 < t < 1, 0 < u < 1.7 \pi}\) から \(\mathbb{R}^3\) への関数です。
ヤコビアンの具体的な計算
- \(\frac{\partial(x, y)}{\partial(t, u)}\) のヤコビアン
$$
det\left[\begin{array}{cc}
2 t \cos u & -\left(t^2+a\right) \sin u \\
2 t \sin u & \left(t^2+a\right) \cos u
\end{array}\right]=2 t\left(t^2+a\right)
$$ - \(\frac{\partial(y, z)}{\partial(t, u)}\) のヤコビアン
$$
det\left[\begin{array}{cc}
2 t \sin u & \left(t^2+a\right) \cos u \\
1 & 0
\end{array}\right]=-\left(t^2+a\right) \cos u
$$ - \(\frac{\partial(z, x)}{\partial(t, u)}\) のヤコビアン
$$
det\left[\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
2 t \cos u & -\left(t^2+a\right) \sin u
\end{array}\right]=-\left(t^2+a\right) \sin u
$$
これらのヤコビアンがすべて0になる状況は、写像 \(\varphi\) が局所的に逆写像を持たない、つまり局所的に非単射(一対一ではない)であることを意味します。特に \(a = 0\) かつ \(t = 0\) のとき、すべてのヤコビアンが0になるため、\(\varphi\) は原点で特異(非滑らかな変化)を持ちます。
パラメータ\(a\)の影響
\(a > 0\) の場合、常に少なくとも1つのヤコビアンが0でないため、\(\varphi\) は滑らかです。\(a = 0\) においては、\(t = 0\) での特異点が問題となります。画像に示された曲面は、\(a\) の値が0に近づくにつれて、曲面が原点で潰れていく様子を表しています。これは、\(a\) が曲面の「広がり」をコントロールし、\(a = 0\) で特異点を引き起こすことを示しています。
球面とアトラス
ところで球面\(x^2 + y^2 + z ^2 = 1\)は明らかに滑らかな曲面ですが、ある二次元の領域とこの球面全体を一対一で対応させることは可能でしょうか?どういうことかというと、球を平面に変換し、逆に平面から球に情報を失うことなく変換できるのかどうかということです。
それは地球全体を一枚の地図で(歪みなく)表すに等しいのでできません。(そんな地図ありませんよね)
ではどうするか?答えは単純で、一枚の座標系\(\varphi\)で覆いきれないのであれば、何枚かの座標系を用意して、部分的にそれらを貼り合わせながら球面全体を覆えばよいということです。
これは地球全体の地図を作る際、何枚かの局所的な地図(チャート)に分割して地図帳(アトラス)を作る方法ととてもよく似ています。
曲面 \(M\)上の点\(P\) の周りに存在する二つの局所座標系 \(\psi_1\) と \(\psi_2\) について考えてみましょう。次のような定義です。
$$ \begin{aligned} & \psi_1: U \longrightarrow \mathbb{R}^2 \\ & \psi_2: W \longrightarrow \mathbb{R}^2 \end{aligned} $$
\(\phi_1\)が定める座標系を\((x^1,x^2)\)、\(\phi_2\)が定める座標系を\(\left(\xi^1, \xi^2\right)\)と書くことにすると、点Pは\(U\)と\(W\)の共通部分\(U \cap W\)に属しているので、点Pの周りの出来事は座標系\((x^1,x^2)\)を使って書いてもいいし、座標系\(\left(\xi^1, \xi^2\right)\)を使って書いてあげてもいいということになります。
そこで、この点\(P\)の座標を一つの座標系から別の座標系へ変換する写像が次のように表されます:
$$ \psi_2 \circ \psi_1^{-1}: \psi_1(U \cap W) \longrightarrow \psi_2(U \cap W): \left(x^1, x^2\right) \longmapsto \left(\xi^1, \xi^2\right) $$
この写像は座標変換と呼ばれ、異なる座標系間で点 \(P\) の位置を相互に関連付けるために使用されます。
接ベクトルと座標変換則の説明
この座標変換についての考察を深めていくことにします。曲面\(M\)が住んでいる3次元Euclid空間\(\mathbb{R}^3\)の直交座標系を\((z^1,z^2,z^3)\)で表すことにします。ここまでの設定を改めて整理すると次のような状況です
座標系\(\psi_1\)が定める\(U(\in M)\)の方程式:
$$ \left(z^1, z^2, z^3\right)=\psi_1^{-1}\left(x^1, x^2\right) $$
座標系\(\psi_2\)が定める\(W(\in M)\)の方程式:
$$ \left(z^1, z^2, z^3\right)=\psi_2^{-1}\left(\xi^1, \xi^2\right) $$
このような状況です。
次に、点 \(\mathrm{P}\) における曲面 \(M\) の接平面 \(T_\mathrm{P}\) を考えます。これは \(\mathbb{R}^3\) の部分集合であり、点 \(\mathrm{P}\) を通る線形空間です。点\(P\)における座標曲線\(x^i\)方向の接ベクトルは次のように表されます:
$$ \boldsymbol{e}_{x^i} := \frac{\partial \mathrm{P}}{\partial x^i} = \left(\frac{\partial z^1}{\partial x^i}, \frac{\partial z^2}{\partial x^i}, \frac{\partial z^3}{\partial x^i}\right) \quad (i=1,2) $$
ここで、\(\boldsymbol{e}_{x^i}\) は座標系 \((x^1, x^2)\) における \(x^i\) 方向の接ベクトルです。こうして作られる接ベクトルの組\(\{\boldsymbol{e}_{x^1}, \boldsymbol{e}_{x^2}\}\)を、座標系\((x^1,x^2)\)に付随した\(T_\mathrm{P}\)の自然基底と言います。同様に、座標系 \((\xi^1, \xi^2)\) における接ベクトルからなる\(T_\mathrm{P}\)の自然基底は以下のように表されます:
$$ \boldsymbol{e}_{\xi^a} := \frac{\partial \mathrm{P}}{\partial \xi^a} = \left(\frac{\partial z^1}{\partial \xi^a}, \frac{\partial z^2}{\partial \xi^a}, \frac{\partial z^3}{\partial \xi^a}\right) \quad (a=1,2) $$
座標変換則で見える考え
\(\{\boldsymbol{e}_{x^1}, \boldsymbol{e}_{x^2}\}\)も\(\{\boldsymbol{e}_{\xi^1}, \boldsymbol{e}_{\xi^2}\}\)もともに線形空間\(T_\mathrm{P}\)の基底であるから、ある座標系の基底ベクトルを別の座標系の基底ベクトルで表現することができます。具体的には、以下の式が成り立ちます:
$$ \boldsymbol{e}_{x^i} = \frac{\partial \xi^a}{\partial x^i} \boldsymbol{e}_{\xi^a} $$
ここで \(\frac{\partial \xi^a}{\partial x^i}\) は座標変換の際の偏微分係数であり、座標系 \((x^1, x^2)\) から \((\xi^1, \xi^2)\) への変換を示しています。この関係式は、異なる座標系間で接ベクトルがどのように関連しているかを示しています。
この最後の変換則を見ると\(\mathrm{P}\)という記号が必要ないことが分かります。つまり、変換自体に点\(\mathrm{P}\)がどのような空間にいるのか、何次元なのか?などの情報が必要がないことを意味しています。これは座標変換時に曲面\(M\)が\(\mathbb{R}^3\)の空間に住んでいるということを考えなくてもよい(知らなくてもよい)という発想が生まれてきます。
実際、人類は地球表面が球面であることを人工衛星が打ち上げられるはるか昔から、少なくとも18世紀には認知されていました。
このように、私たちはその世界の存在を前提せずに、その空間自体を直接研究するという観点。すなわちその世界に住んでいる生命体が理解できる幾何を研究する内的な幾何という考え方が生まれました。
人類は宇宙の外に出ることができません。しかし、人類が地球の外に出なくても地球が球体であることを認知したように、外に空間があることを仮定せずに、宇宙そのものだけをみて研究ができるのです。
それを可能にするのが「多様体」という存在です。
多様体の定義
さっそく、多様体の定義を見てみましょう。たぶんこのままでは洗練されすぎていて頭に入ってこないと思いますがまずは単刀直入に数学的定義を見てみます。
後付けでいろいろと解釈を加えていくという方向で話を進めていきます。
【定義】(C^{r})級多様体
- \(M\)は(可算基を持つ)Hausdorff(ハウスドルフ)空間
- 適当な集合\(\mathcal{A}\)を添え字集合とする\(M\)の開集合\(\left\{U_\alpha\right\}_{\alpha \in \mathcal{A}}\)と写像\(\psi_\alpha: U_\alpha \rightarrow \mathbb{R}^n\)の族\(\left\{\psi_\alpha\right\}_{\alpha \in \mathcal{A}}\)があって、以下の3条件を満たす。
a. \(M=\bigcup_{\alpha \in \mathcal{A}} U_\alpha\)
b. 各\(\alpha \in \mathcal{A}\)に対し、像\(\psi_\alpha\left(U_\alpha\right)\)は\(\mathbb{R}^n\)の開集合で、\(\psi_\alpha: U_\alpha \rightarrow \psi_\alpha\left(U_\alpha\right)\)は同相写像(すなわち、\(\psi_\alpha: U_\alpha \rightarrow \psi_\alpha\left(U_\alpha\right)\)は全単射で、\(\psi_\alpha\)も\(\psi_\alpha^{-1}\)も連続写像)この\(\psi_\alpha\)を局所座標という
c. \(U_a \cap U_\beta \neq \emptyset\)ならば、写像\(\psi_\beta \circ \psi_\alpha^{-1}: \psi_\alpha\left(U_\alpha \cap U_\beta\right) \rightarrow \psi_\beta\left(U_\alpha \cap U_\beta \right)\)は\(C^r\)級
多様体の定義:解釈編
まず大雑把に多様体のイメージしようと思ったら、現代人にとっての「宇宙」や、古代人にとっての「地球の表面」のような具体的なイメージするとわかりやすいです。広がりを持った空間(もしくは曲面)として局所的には認識できるが、あまりにも大きすぎて全体像が分からない。そういう存在を考えてみましょう。
条件の一つ目は、病的な対象を排除するためのおまじないのようなもので、別にこのハウスドルフ性を仮定しなくても、多様体の概念を定めることはできますが、点列の収束先が一点とは限らないなど、ユークリッド空間の満たすような局所的な性質を満たさないものまでも扱う必要が出てしまうのです。
多様体に特徴的な定義の条件は二つ目のものです。ここに登場するペア\(\left(U_\alpha, \psi_a\right)\)を座標近傍またはチャート(chart)といいます。その全体を\(\left\{\left(U_\alpha, \psi_\alpha\right)\right\}_{\alpha \in \mathcal{A}}\)のことをアトラス(atlas)と呼びます。また、各写像\(\phi_\alpha\)を局所座標系と言い、三つ目の条件に出てくる写像\(\psi_\beta \circ \psi_\alpha^{-1}\)を座標変換といいます。
2-a は\(\left\{\left(U_\alpha, \psi_\alpha\right)\right\}_{\alpha \in \mathcal{A}}\)が多様体\(M\)全体をカバーしつつ、各パーツ\(\left(U_\alpha, \psi_\alpha\right)\)ごとに\(U_\alpha\)が\(\phi_\alpha(U_\alpha)\)に対応づけられていることを意味しています。
実際の地球表面は、回転楕円面であることが知られている。この知識は冒険家、探検家や隅々まで探索しつくした努力の賜物であり、
2-aの定義は、そのような「隅々まで歩きつくす」努力をすでになされ、「世界地図の地図帳」がすでに得られている状態を仮定しています。
この定義の解釈のため、現代的にイメージをしてみよう。\(M\)は宇宙の遥か彼方にある未知の小惑星だったとします。もちろん地球からはどのような形をしているのかその全容を知ることはできません。
地球から\(M\)に向けて、集合\(\mathcal{A}\)(例えば\(\mathcal{A} = \{1,2,3,\cdots \}\))で番号付けされた多数の観測用衛星\(\{\psi_\alpha\}_{\alpha \in \mathcal{A}}\)を打ち上げ、小惑星\(M\)の上空に静止衛星として張り付かせる。
衛星は、それぞれ決まった領域\(U_\alpha \in M\)の状況を通信回線\(\psi_\alpha\)を介して地球に送ります。すると、各回線を経由して送られてきた映像はコントロールセンターに設置された複数のモニターにバラバラに映し出され、それぞれのモニターが空間\(\mathbb{R}^n\)に対応し、そのモニターに写された映像が\(\psi_\alpha(U_\alpha)\)と考えることができます。
さて、こうして地球に送られてきた映像\(\psi_\alpha(U_\alpha)\)は、一般にはもとの天体\(M\)の一部分の領域\(U_\alpha\)そのものではなく、ゆがんだりひずんだりしていることでしょう。
しかし、一対一かつ連続に対応していれば、情報\(\psi_\alpha(U_\alpha)\)からもともとの\(U_\alpha\)が復元できます。それを要請しているのが条件2-bであります。これによって、写像\(\psi_\alpha\)とその逆写像\(\psi_\alpha^{-1}\)を介して、\(M\)と\(\mathbb{R}^n\)の間を部分的に自由に行き来できるようにしているのです。
ところで、各モニターの映像は\(M\)のモニター全体を捉えているわけではないので、モニターの端に行くと映像が途切れています。もっと先を見たければ、その先を映し出している別のモニターを参照しなければなりません。この状況は地図帳を開いて旅をするときとそっくりです。南に進んで旅をしているとすぐにそのページからはみ出てしまい別のページに移動しなければならなくなります。
ふつう、地図帳では必ず隣り合う地図に必ずオーバーラップした部分を用意します。そしてこのオーバーラップした部分を利用して、あるページから別のページにスムーズに移行できるようにしているのです。
多様体の地図帳(アトラス)においても同じようにこのページ同士の「つながり」が重要な役割を果たします。多様体\(M\)について何か大局的な情報を得たければ、地図帳の利用者である我々自身がページとページがつながっている部分を順次追っていき、情報をつないていく必要があります。このとき、ページとページが繋がっている部分の情報が明確に与えられることで、初めて多様体\(M\)の全体像が把握できるようになるのです。
この「つながり具合」を規定するのが2-cの写像です。
すると、\(U_\alpha \cap U_\beta \neq \emptyset\)ならば、共通部分\(U_\alpha \cap U_\beta\)上では、二つの写像\(\psi_\alpha, \psi_\beta\)が定義されているから、\(\mathbb{R}^n\)(モニター)に飛ばされた各々のモニター画像の一部\(\psi_\alpha\left(U_\alpha \cap U_\beta\right)\) と \(\psi_\beta\left(U_\alpha \cap U_\beta\right)\)は、写像
$$\psi_\beta \circ \psi_\alpha^{-1}: \psi_\alpha\left(U_\alpha \cap U_\beta\right) \rightarrow \psi_\beta\left(U_\alpha \cap U_\beta\right)$$
を介して互いに一対一かつ連続に対応している。しかも、\(\psi_\alpha\left(U_\alpha \cap U_\beta\right)\)も\(\psi_\beta\left(U_\alpha \cap U_\beta\right)\)も\(\mathbb{R}^n\)の部分集合であるから、上記写像\(\psi_\beta \circ \psi_\alpha^{-1}\)に通常の微分積分学の手法を適応できる。そこで、この写像が滑らかな写像であることを要請するのが2-cなのです。
そこで、異なる二つのモニター画像(もしくは地図帳の隣り合うページ)における共通部分(オーバーラップ)が滑らかな変改で移り合うことを要請しているのです。
この写像が同相写像であることは2-bから保証されていますが、この2-cの定義ではさらに何回微分できるかという性質に関心を抱いています。
定義はここまで、最後に多様体の例を見て理解を確かなものにしましょう。
具体例で分かろう多様体
\(S^2\)(球面)が\(C^{\infty}\)多様体となることを示そう
$$
\begin{aligned}
& M=S^2=\left\{(x, y, z) \in \mathbb{R}^3 \mid x^2+y^2+z^2-1=0\right\} \\
& N=(0.0,1), S=(0,0,-1) \in S^2 \\
& U_0=S^2 \backslash\{N\}, U_1=S^2 \backslash\{S\}
\end{aligned}
$$
\(\varphi_0, \varphi_1\) : the stereograph projection
まずは\(U_0 \cup U_1=M\)は明らかに満たす。(aが満たされる)
\(\varphi_0\)は直線NPと\(xy\)平面の交点を返す次のような写像とする\(\varphi_0: S^2 \backslash\{N\} \rightarrow \mathbb{R}^2\)
\(\varphi_0((x, y, z))=\left(\frac{x}{1-z}, \frac{y}{1-z}\right)\)となり、その逆写像は
\(\varphi_0^{-1}((x, y))=\left(\frac{2 x}{1+x^2+y^2}, \frac{2 y}{1+x^2+y^2}, \frac{-1+x^2+y^2}{1+x^2+y^2}\right)\)(bが満たされる)
そして、最後に\(\varphi_{01}\)について
次のような写像を考えよう
$$
\begin{aligned}
& U_0 \cap U_1=S^2 \backslash\{N, S \} \\
& \varphi_{01}: \varphi_1\left(U_0 \cap V_1\right) \rightarrow \varphi_0\left(U_0 \cap U_1\right)
\end{aligned}
$$
$$
\varphi_{01}((x, y))=\left(\frac{x}{x^2+y^2}, \frac{y}{x^2+y^2}\right)
$$
これは明らかに\((x,y) \neq (0,0)\)で無限回微分可能なので、cは\(C^{\infty}\)となるので無限回微分可能
よって\(S^2\)は\(C^{\infty}\)級多様体である。□
参考
https://www1.econ.hit-u.ac.jp/kawahira/courses/kiso/04-mfd.pdf